医療法人 八子胃腸内科クリニック

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ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の除菌治療は必要か?

ヘリコバクターピロリ感染胃炎に対する治療目的とは

2013年の2月にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療の保険適応が認められ数多くのマスコミ報道もあり、除菌治療について関心を持たれた方も多いのではないでしょうか。私自身も平均すると月に約100人以上の胃の内視鏡検査を行っていますので、患者さんから相談される事が多い方だとは思いますが、同胃炎に関しては一切除菌治療はしておりません。ここではその理由について詳述してみたいと思います。
ヘリコバクター・ピロリ陽性胃炎に対する除菌治療は保険適応上は内視鏡検査において確定診断がなされた患者のみに限定はされており、適応上は胃がんの予防的治療との記載はありませんが、一般的には胃がんの予防的治療として認識されています。
わが国のピロリ菌感染者数は減少傾向にあるとはいえ、全人口の約1/2~1/3近くはいるとされており、日本ヘリコバクター学会や除菌治療に積極的な先生方はその感染者のすべてを除菌する事で日本における胃がんの撲滅につながり、その結果医療費の削減ができると訴えています。
確かにピロリ菌による胃炎を持った人は発生母地として胃がんになりやすいのは事実で、ピロリ菌感染者と非感染者の単純な比較をすれば感染者の方が胃がんの罹患率が高いのは当然です。ただその費用対効果を論じるのであれば、統計的な罹患実数、除菌後に起こりうる事象についても考慮する必要があります。
胃がんの罹患数は年々減少して2012年のデータで男性は人口10万人に対して約100人(つまり約1000人に1人)、女性は人口10万人に対して約50人(つまり2000人に1人)で、死亡数はほぼその半分です。現在約1000~2000人に1人である罹患数をさらに減らすために、今後も胃がんを発症しないであろう大部分の人も含めて保険診療で除菌治療を行うというのはあまりにも乱暴な治療ではないでしょうか。

 

当クリニックがヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に除菌療法をすすめない理由

そもそもピロリ菌に感染している人が全員胃がんになるわけではなく、最近の遺伝子学的な研究により、ピロリ菌感染によって生じる胃粘膜の炎症がDNAのメチル化異常を誘発し、そのDNAのメチル化異常の量が胃がんの発症リスクと相関することがわかってきています。近い将来には胃粘膜のメチル化異常の定量化ができて、詳細な胃がんの発症リスクも予測できるようになるといわれており、その様な検査法が確立して詳細な選別ができた上での除菌治療でもいいのではないでしょうか。
また、ピロリ菌感染が誘引となる胃がんの約8割はあまり悪性度の高くない分化型がんで、そのほとんどが早期発見により救命可能ながんです。逆に絶対数は少ないながらもピロリ菌陰性胃がんの半数以上は命に関わるような悪性度の高い未分化がんである事から、除菌治療によって単純な胃がんの罹患数だけをみると減少はするかもしれませんが、未分化がんの罹患数はあまり変わらずに死亡数はあまり減らない可能性もあります。
それどころか、後述するような理由で除菌治療を受けた事で内視鏡検査を受ける機会が減って、内視鏡で早い段階で見つかる可能性があった未分化がんの発見ができずに死亡数は増える危険性もあります。
胃がんによる死亡数を減らす事を目的とするならば、除菌治療よりもやはり早期発見・早期治療のために定期的な内視鏡検査を推奨すべきだと思います。
 

 

除菌治療後の問題点

除菌治療後に直近で起こりうる一番大きな問題点は逆流性食道炎の増加です。ピロリ菌感染が胃食道逆流症に抑制的に働いている事は世界的に常識で、特にアジア人ではその傾向が強いといわれてます。現時点では日本での除菌後の逆流性食道炎のリスクに関しての検討はありませんが、台湾のデータでは除菌によって逆流性食道炎の罹患率が14%から28%へ倍増したとの報告もあります。除菌治療を受ける人の急増により、日本でも数年後には同様に増加してくる事は容易に予想されます。
特に注意した方がよいのは胃もたれ、便秘などの消化管運動機能が低下しているタイプの機能性ディスペプシア(FD)の方で、除菌後にかなりの方に逆流性食道炎が発症・悪化するものと思われます。基本的にはヘリコバクター・ピロリ感染胃炎というのは自覚症状は出ない事が多く、その機能性ディスペプシアの症状の改善の目的で除菌治療をしてしまうと胃酸過多の傾向になってしまい、除菌には成功しても結局制酸剤が手放せなくなるという事になります。また、除菌治療時の抗生剤の使用によって腸内細菌のバランスが変化して、その後の排便習慣が全く変わってしまう方もいます。
さらに将来的に危惧される点もあります。一度除菌治療を受けた人が、除菌の効果判定も受けず、さらに自分はもう絶対に胃がんにはならないと思いこんで胃の検査自体を受けなくなってしまう事です。
場合によっては除菌が不成功だった挙句、定期的な内視鏡での経過観察も受けなかった事でがんが早期発見されずに進行がんになってから発見されるという例も出てくるかもしれません。

 

当クリニックの除菌治療方針

以上の様な種々の理由から治療後に起こりうる事とのバランスも考えて、現時点では当クリニックではヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対しては治療を施行しておりません。
ただ従来通りに再発性の胃・十二指腸潰瘍の方、以前に胃がんで治療を受けた方については除菌治療はお奨めしております。

今まで何の症状がなかったのに除菌治療後に色んな症状が出て、必要のなかった薬を飲むようになってしまってから後悔してもどうにもなりません。
特に症状のない胃炎で除菌治療を受けようと思っている人はもう一度良くお考えください。